本学会は,1973年に防菌防黴研究会として創立,それから2年後に防菌防黴学会へと名称が変更されて,50年となります。異なった専門領域間を埋める体制,境界領域の研究体制を確立するための学会設立は,当時にとっては先進的な取組であったと想像します。既成の学問体系の中に閉じこもることなく,人類の福祉に寄与するための研究体制が必要との考えを取り入れ,学会設立を実現された先達の英断に敬意を表します。異業種間の横断的連携がなされた国際的な取組として,ワンヘルス・アプローチがあります。ベルリンで1993年に開催された世界獣医師会大会で採択された宣言に始まりますが,本邦では,厚生労働省が2015年に提唱しています。本学会の創立は,ベルリン宣言より20年前,世界に先駆けた優れた活動と誇りに思います。
創立以来,諸先輩方のご尽力によって,人々の生活の質の改善,様々な産業分野で求められる防菌防黴の技術開発や研究の成果を社会に還元することで社会貢献を実現してきました。創立講演で初代学会長の藤野恒三郎先生が話された「“あの時点で良いものを作っておいてくれた”と評価されれば,本学会創立の意義があったことになります。少なくとも,現在の学会員は,これらの反対の評価が出現しないための,努力を惜しんではならないと思う。(防菌防黴誌vol.1 No.1(1973)」。創立から50年をへて,“まさに良いものを作っていただいた”と実感しています。
私が所属する北里環境科学センターは,本学会創立と同年の1973年に北里大学の旧衛生学部(1994年に現在の理学部と医療衛生学部に改組)内に設立された「北里環境衛生研究センター」を母体とし,1977年に財団法人として設立されました。北里柴三郎 博士が目指した予防医学の実践の場として,環境問題の改善と予防医学に資する事業を通じ健全な生活環境の創造に寄与することを目的としており,本学会と同じ理念を有する組織として,設立当初から連携し活動してまいりました。私もこれまでの学会活動,会員の皆様との交流を通して,多くのことを学び,ともに一つの目標に向かう同志のような気持ちで過ごしてきました。
本学会の活動で何より重要なのは,参加してよかった・面白かった・役に立った,と思える交流の場を提供することだと考えます。今年は大阪ではなく三重県賢島にて3日間開催の年次大会,またしばらくぶりに微生物実験講座の開催が企画されています。会員の皆様の積極的なご参加と有意義な情報交換の場となることを期待しております。
新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行後,基本的な感染対策の判断が個人に委ねられ2年が経過しましたが,引き続き人々の生活に役立つ感染対策の情報が求められています。学際学会である本学会は,幅広い研究分野からの有用な情報の発信が可能であり,学会誌がその役割を担っています。また,海外からの投稿実績があり,国際的に関心が得られているJournal of Microorganism Control には,さらなる拡充が望まれます。2023年に設置された実空研衛生研究部会は,「実際空間における微生物に対する化学物質の効果を検証する方法の設計指針」の本年中の構築を目指しています。指針が消費者に有益な情報提供の手段となり,空間衛生を目的とした製品が快適な生活空間の創造に寄与することを願います。
本学会の会長を拝命したことは,私自身,大変な驚きであると同時に責務の重さに身が引き締まる思いです。はなはだ微力ではございますが,防菌防黴学会の一層の発展に向けて最善の努力を尽くしてまいりますので,会員の皆様のご支援とご協力をお願いいたします。
日本防菌防黴学会 会長 菊野理津子(一般財団法人 北里環境科学センター)